当初意向と最終意向、改正保険業法で混乱する現場と本来の目的

少し前のことですが保険業法が2016年5月29日に改正されました。これを”改正保険業法”と呼んでいます。

これによって『意向確認』が義務化されて久しい日本の保険業界ですが、その実務において金融庁の本意を反映していないただの書類が一枚増えただけという扱いをしている保険募集人も少なくありません。

改めて日本の保険業界における『保険業法』の位置付けの確認と、改正の最大の争点であった『意向確認』の実務における意義を考えていきたいと思います。

 

橋本内閣によって崩壊した旧保険業法、護送船団方式

高度経済成長、バブル景気の時まで日本における金融業界は金融機関至上主義でした。

“護送船団方式”という言葉をご存知でしょうか?

国内大手の全て漢字で社名が書かれている保険会社はその経済力にモノを言わせて、様々な企業の大株主となっていました。

大株主なので会社に要望を出します。

「うちの保険募集人をオタクの会社に出入りさせて保険募集ができるようにしろ」

会社は従業員に保険に入ることを強制することはできないため、勧誘のきっかけだけであればと出入りの許可をすることに同意をします。※株主でなくても、経営陣や現場の責任者の裁量で出入りのきっかけを作ったケースも多くあった。

結果、職域と呼ばれ昼休みなどに会社に出入りする保険営業職(セールスレディら)があちこちの会社で増えました。

写真は戦後の第一生命のセールスレディたちの様子。

戦後の学歴も仕事の経験も乏しい寡婦(未亡人)を大量に雇い入れた日本の保険会社は彼女たちに

保険募集人としての職を与え、一家の大黒柱である夫を失った時の家計における経済的ダメージについて

一軒一軒、説得して全国を歩いた。

 

昼休みにパンフレットを配ったり、アンケートをしたり、飴ちゃんを配ったり、ノベルティグッズを配ったり…

地道な活動の積み重ねで日本の生命保険加入率は96%と世界最高水準にまで到達します。

何しろ生命保険そのものが当時は完全な認可制で、A社〜Z社まで原則として全く同じ商品を販売していました。

数少ない差別化のポイントが特約の違いだったため、契約者は「どこで加入しても同じなら、

普段会社に出入りしている顔見知りの保険のおばちゃんから入ろう」と考える人が多かったのもうなづけます。

この当時の金融機関横並びの現象を、周囲に強力な攻撃力のある船で囲み、

中心には保護されている船がある状態に喩え、護送船団と呼んだのです。

この当時の旧『保険業法』は護送船団方式で、大手金融機関を守るために存在したとさえ呼ぶ人もいるほどです。

しかしバブルがはじけて大量の不良債権を抱えた日本の金融機関はこのままでは生き残れない危機の時代に突入します。

橋本龍太郎内閣による第一次金融ビッグバンによって保険業法は改正され、新『保険業法』となります。

異業種や外資からの保険業界への参入が活発になり、破綻した金融機関が次々に現れましたが、参入を検討していた外資の足がかりとなり今日に至ります。

この1996年の改正によって、護送船団方式の営業は事実上の崩壊を始めます。

保険会社それぞれの創意工夫によって大蔵省への届け出に基づき、主契約での差別化や医療保険の単独加入が解禁されました。

生・損保の相互参入、生命保険や損害保険の乗合代理店の解禁など現在の日本の保険業界に続く変化の大改正でした。

2年後に大蔵省が解体され、金融庁や国税庁、財務省などに分割されると金融庁が認可した保険商品の税務の取り扱いにおいて国税庁との見解の相違が生じるなどの縦割り行政の弊害が生じ数々のトラブルの原因ともなりました。

2010年4月1日に契約者保護のために『保険法』が新たに施行されました。およそ100年ぶりの新法により、これまでは商法の中に規定されていた保険契約者について、保険契約についての契約ルールが明確化されました。一言で言えば、顧客保護が強化されました。例えば告知が自発的申告から質問形式となり、保険会社ごとに取得したい健康状態についての質問に事実をありのままに答えることが契約者の義務となり、正しく質問をした契約者は保護される仕組みが確立されていきます。

言い換えれば、契約者は告知義務違反をしてしまった場合、保険金・給付金が支払われないか契約が解除・取消となる事にもなりました。

正しい告知をした契約者が損をすることのないように、公平性が強化されたと考えることができます。

またこれにより限定告知型や引受基準緩和型の医療保険が様々な保険会社から発売開始となります。

また年払保険料のうち、未経過保険料を月払として計算して返金する業界ルールも1社※を除き始まりました。

※マニュライフ生命のみこれに参加していない。社内の事情があるとは言え、この会社の保険商品には原則的に年払で加入してはいけないのは保険募集人の共通認識になっている。

 

職場からセールスレディが消えた!?2005年個人情報保護法の施行

上記で触れた職場に出入りしていた保険募集人、いわゆるセールスレディたちが消え、以降の新入社員は保険について無知なまま、

また無保険な人たちがかなり増えてしまったのは2005年に施行された個人情報保護法が影響しました。

職場への出入りがIDカードなどがなければ入室できなくなった…個人情報の漏洩リスクには入退室管理から。これが一つのキッカケになったことは間違いありません。

保険会社によっては職場に限らず、食堂や休憩室などに出入りする事で補おうとしていますが、当時よりも保険募集が厳しくなった一因にはなっているでしょう。

2005年以降の若い社会人にとっては保険会社の人間が職場の廊下や休憩室などにいることを不思議に思っていたり、

彼女たちが何故パンフレットやアンケートや時にノベルティーを配っているのか分からない人も少なくないでしょう。

昔の名残です。

会社に出入りしているから会社から入るように勧められているわけではないですし、加入する保険会社や相談先は自分でもっと選ぶことができます。

会社はあくまでも場を提供しているだけです。

もし加入を強要されているとしたら保険募集のルール違反となりますので、生命保険協会までご相談された方が良いでしょう。

 

2016年5月29日『改正保険業法』施行、保険業界は大変革期へ

 

細々とした改正は今までも時々ありましたが、改正保険業法の施行では金融庁の推進する『顧客本位の業務運営』に基づく改正が行われました。

その最大のポイントは今回のテーマ『意向把握義務』です。

 

意向把握とは一体なんなのか?

保険会社によって形式は異なりますが、契約時に意向確認書と呼ばれる書類を契約者は記入することになりました。

意向確認書には第一に、保険募集人に対する確認があります。第二に契約者に対する確認があります。

二段階の確認を要するとは、なんだか慎重な感じがしますがこれは実はかなり重要な、

しかし考えてみれば契約締結時に当然行うべき当たり前のことをしているにすぎません。

 

第二の意向確認”契約者による確認”

死亡保障なのか、

医療保障なのか、

がん保険などの特定疾病に対する保障なのか、

年金なのか、

老後の生活資金のための商品なのか、

貯蓄機能の有無などいわば加入する商品の特性を理解しているかの確認をしています。

 

どんな保障内容か。

どんな時に保険金・給付金が支払われるのか。

どれくらいの保険金・給付金が支払われるのか。

保障期間や保険料の払込期間、払込方法や経路(口座振替やクレジットカード払など)、月払なのか年払なのか、月々の保険料や何歳まで保険料を支払うのか。

配当の有無や解約返戻金の有無また推移についても確認を求めています。

全く自分が思っていたものとは異なる内容で、誤って契約をすることがないように様々な質問をしています。

 

第一の意向確認”保険募集人による確認”

いわゆる『当初意向』と『最終意向』の確認です。

『当初意向』とは、保険相談の始まった当初、どのようなニーズ(考え)でいたかを示しています。

また『最終意向』では保険相談の結果、どうしてそれが変化したのか。

保険募集人に言いくるめられて、保険契約をしようとしていないか。

検討していたものと異なるものに加入していないのか。

契約者自身にも確認を取っているのです。

 

誤解がないように言い換えれば、金融庁は『当初意向』と『最終意向』が同じであることを求めている訳ではありません。

保険契約者は殆どの場合において、保険募集人よりも圧倒的に保険について知りません。

情報社会とは言え、プロと個人の最大の違いは情報の非対称性です。

この差は決して埋まることがありません。

つまり保険募集人は相手を言いくるめようと思えば、いつでも勝率99%で勝てるということです。

しかしそれをしないのは顧客の自主性の尊重と価値観の強要をしないためです。

 

保険募集における相談は保険募集人からすれば商談ですし、セールスプロセスは価値観の擦り合わせ(合意)です。

価値観が異なる契約者を顧客とすることは保険募集人(担当者)からすれば不幸ですし、顧客からしても不幸です。

価値観の合わない夫婦が長続きするでしょうか?

大袈裟かもしれませんが、保険契約とは人生における約束事を一つ交わすことではないでしょうか。

 

顧客において価値観の合わない、信頼や信用、尊敬できない人を保険の担当者にする必要は皆無です。

何を言っても「この人の言う事はもっともだ」と理解・納得するのではなく、「コイツにそんなこと言われたくない」「この人の言っていることの意味がわからない」が

その一方でどれだけインターネットがこれから進化をしても、人が交わす契約には論理(言葉や数字)だけで片付けることが出来ません。

この『当初意向』と『最終意向』で金融庁が目指しているのはプロに相談したことによって顧客が予め加入しようと思っていたものと、プロのコンサルティング・アドバイスによって『当初意向』から変化をした事を顧客自身にも、保険募集人にも、引き受けをする保険会社にもお互い認識をすることの重要性を求めているのです。

 

よって『当初意向』と『最終意向』が異なる場合には顧客が何に気づき、新たな意向について正しく理解をしているかを

合意と記録・報告することが意向確認書の真意です。

 

金融庁の目指す『顧客本位の業務運営』

フィデューシャリー・デューティー(FD)と呼ばれる宣言を金融庁の前長官だった森信親氏は掲げていました。

『顧客本位の業務運営』とは金融機関に顧客の言いなりになりなさいとか、

顧客が医療保険が欲しいと言ったのだから医療保険を提供しなさいという事を推奨しているのでは決してないのです。

それはそれで良いけれど、顧客は生命保険の本当の価値や自分自身に本来必要な保障を正確に理解も把握も出来ていない事が一般的なので、

プロフェッショナルのFPや保険募集人はそれを正しく顧客に理解してもらい、導くコンサルティング・アドバイスをする事を求めているのです。

こういうのは奢りと受け取られるかもしれませんが、顧客に『こういった考え方もあるんだ、

本当に自分が求めていたのはこれだったと気付いてもらうのも仕事』だと私は考えています。

あなたは『当初意向』と『最終意向』について正しく理解して実践していますか?

 

またプロフェッショナルなFP、保険募集人として顧客の潜在的な意向に気づき、それを顕在化するお手伝いが出来ているでしょうか。

この過程を経て、保険契約を行う事を”ニードベースセールス”と呼んでいます。

P社やG社が業界の中で孤軍奮闘、普及に尽力している生命保険の根幹です。

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