保険の歴史4〜時代の変化に合わせて変化してきた日本の保障領域

1945年に日本が太平洋戦争を終えると、日本は戦時国債がデフォルト(債務不履行)します。

戦費を調達する目的で発行された国債である戦時国債を買い支えていた多くの金融機関ではこれが原因となり破綻や取り付け騒ぎが相次ぎます。

その後、日本を襲ったハイパーインフレは現在で言えば缶コーヒー(110円)が3年で1,000円にまで値上がる急騰を起こします。

物価上昇に伴い加入していた死亡保険金は預貯金と同じ額面保証のために葬儀費用として不十分なものになってしまう事態に陥ります。

また1942年に始まった労働者厚生年金(現在の厚生年金の原型)は積立金がこの際のハイパーインフレでぶっ飛び(価値が1/8になってしまい)、積立金不足のまま将来に向けての支払いを約束せざるを得ない形で存続してしまい、若い世代ほど不利な仕組みに変質してしまいました。

世界の保険会社ではこれらの反省からインフレに対応する利率変動型(利率更改型)の保険商品や変額保険が検討され始めます。

 

1960〜1970年代、モータリゼーション時代の保障領域

日本が復興、高度経済成長を遂げる中で大きな問題になったのが自動車事故でした。

1955年に150万台の自動車が普及する一方で、1956年には自動車事故による死者6,000名超、負傷者10万人を超えます。

https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/rashisa/story/history/8.html

 

強制加入の自賠責保険が始まりますが、補償されるのはごくごく一部だけ。足りない補償は自分たちで補う必要があり、任意保険としての自動車保険が登場します。

任意保険に入らないのであれば運転するなという暗黙の運転者における責任を果たすための自動車保険はその後国内において自動車の普及と合わせて広く浸透していきます。

https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/taisaku/01_04.html

一方で一命を取り留めたとは言え、全ての事故が犠牲者=歩行者とは限りません。

車同士の事故によって、または自損事故によって重体・重症などは日常生活への健常な状態での復帰は難しく脊柱(背骨)の変形や障害を抱えながらも生きていく人々が社会的問題となりました。

自動車保険には過失割合があり、完全停止の車でもない限り保険金が満額で受け取れることはほぼ限りなくゼロに近いためです。

https://www.npa.go.jp/hakusyo/h17/hakusho/h17/html/G1010000.html

昭和45年(1970年)には交通事故負傷者数が年19,000人目前まで急増しました。

当時の生命保険は死亡保障として提供されていましたが、ここに死亡率の剰余金(想定していたよりも亡くならなかった人の分の保険金積立金)を活用することで保障領域の拡大を保険会社は検討を始めます。

http://www.jili.or.jp/knows_learns/q_a/life_insurance/life_insurance_q25.html

上記は生命保険文化センターが公表している高度障害状態ですが、各社共通ルールでの運用を行っています。

 

交通事故によって下肢の切断や両腕の麻痺などの状態、車椅子などを日常的に要する介護状態を細かく定義しており、保険会社は「経済活動上の死亡」として保険金支払いを認めています。

契約者は追加の保険料を負担しなくても保障領域を拡大できて助かった方も大勢いましたが、保険金支払事由とする高度障害状態の定義は保険会社独自のものでした。

国が認定する障害年金1級や2級、自治体が認定する障害手帳等級となっても高度障害状態と認められないケースもあり、保険金不払いの温床にもなりました。(2010年頃まで毎日全国で各保険会社を相手取り裁判が行われていた)

この解決は今もなお根深く、2014年に日本生命が高度障害保険金の商品への提供中止に踏み切るまで長らく模索の時代が続きました。

故郷の震災を契機に生まれた地震保険

1964年に発生した新潟地震の被害を見て、故郷の惨状を知った若き日の田中角栄氏は1966年(昭和41年)に地震保険の設立を実現します。

現在では

未曾有の災害、しかも広域にわたる被害に対して民間保険会社では支えきれない危険性があるとしてプールされる資金から国が損害保険金の不足分を補うかたち(将来の保険料から補填するまでの立て替え)を取り始まります。

なかなか加入率が浸透しなかった一方で、1995年に発生した阪神淡路大震災を契機に世間で認知され始め、大きな震災が各地で起こるたびに加入率が高くなってきています。

https://www.sankei.com/smp/life/news/170901/lif1709010011-s1.html

 

エイズ治療から生まれた余命宣告。契約者に生前のうちに保険金を支払う革命

https://matome.naver.jp/m/odai/2138719006329482201

アメリカでは1980年代になると著名人らによるカミングアウトを皮切りにエイズ(HIV)に対する社会的関心が高まりました。

治療方法のない末期患者たちはホスピスで死をただ待つばかりでした。

1989年にアメリカのプルデンシャル・フィナンシャル(PFI)の元会長ロバート・バーバロはカナダのホスピスをボランティアで訪ねた際に余命宣告を受けた患者から言われた「私に尊厳ある死を下さい」という言葉に対して余命6ヶ月以内と診断された患者に死亡保険金の前払いを出来ないか掛け合い、法律を変えて受け取れる仕組みとして”リビング・ニーズ特約”の提供を無償で開始します。

その後、この特約は他社でも特許不要、特約保険料不要、受け取れる金額は非課税として世界中の保険会社で提供されるようになりました。

日本ではPFIのグループ会社、プルデンシャル生命によって始めて提供され、他社通算3,000万円(非課税)までを条件に導入されました。

生前給付という新たな保険金支払い事例はその後、日本国内ではソニー生命によってリビング・ベネフィット(LB98)として三大疾病+死亡保障や生前給付型(生活障害型14特則)として三大疾病+障害+介護のように保障範囲の拡大が進められています。

疾病による経済的損失に備える保険の多様化

https://www.nippon.com/ja/features/h00211/

戦後間もない頃には結核が死因の第1位でしたが、ワクチンの普及や衛生環境の変化によって急速に患者数は減少。

長らく第2位にあった脳卒中が第1位(1950-1980)となります。その間、高齢化と共に増え続けていったのが今日の日本人の死因第1位(1980-)がんです。

食習慣の変化、健康診断の普及や医療技術の進歩によって脳卒中はその後減少を続け、第3位だった心臓病(心疾患)との順位は1985年に逆転しました。

がん・脳卒中・急性心筋梗塞を日本人の三大死因として「三大疾病」と呼ぶようになったのも昭和中期〜後期です。

この三大疾病は前述の高度障害保険金請求時のトラブルにも進展します。

例えば長らく第2位にあった脳卒中(脳梗塞・くも膜下出血など)は人間の様々な言語や運動を司る大切な部位で発生します。

左脳に血栓が詰まり脳梗塞を引き起こすと右半分が麻痺をします。右脳に詰まれば左半身が麻痺。杖を突かなければ歩けない、着替えや入浴や生活の様々な面で不自由な状態となりますが上肢または下肢ではなく左右いずれかの麻痺は高度障害状態には該当せず、保険金は全く支払われないということが頻発しました。(契約者が多くの場合には負けることになったが、保険募集時の説明が適切でなかったなど保険会社や保険募集人の責任も問われ、意向確認義務や約款等の契約時の確認事項が増える一因にも影響を与えました)

先に少し触れたように国内最大手の日本生命(筒井義信会長)は2014年に新契約の保険金支払事由から高度障害を削除し、障害年金と連動する保険料払込免除特約の提供を開始しました。

 

これら重篤な病気に対する保障の提供として生命保険各社は特約での保障の拡充を進めましたが、医療分野(第3分野)における主契約での保障提供(単独販売)にはアリコジャパンやアフラックなど日米貿易通商による制約からその後30年近く単独の保障としての提供に遅れをもたらしました。

そんな中でも保険会社の創意工夫が行われ、特約としての傷害保険特約や災害死亡保障特約が登場します。

傷害の程度に応じて100%、70%、50%、30%、10%と支払われる画期的な生損保混合の商品の登場でしたが保険契約の内容を十分に理解せずに加入しているケースも多く「不要な保険料を支払っている」と無駄扱いする募集人も多く今ではかなりマイナーな存在に。本当は結構、使い勝手の良い保険なのですが。

また1990年代後半の金融自由化後は三大疾病罹患時に高額な保険金の支払いがされるプランなどが登場しますが、本来の目的である治療費や後遺障害時の生活に対する備えとしての保険金として目的の曖昧なプランが増える温床となりました。

国内の多くの保険会社でがん保険を始めとした自由競争が2000年を境に始まると”がんと診断”されるだけでまとまった保険金の受け取れる「がん診断一時金」が登場しました。

その後、三大治療(手術・放射線・抗がん剤)治療をしたら支払われる「がん治療保険」や2年に1度給付金が受け取れるタイプ、1年に1度支払われるタイプも登場しました。

現在では保険金支払い対象も「がん」に限定せず特定疾病として三大疾病や五疾病、七疾病、八疾病と保険会社各社から重度の病気に対する備える商品も登場しています。

 

就業不能領域への保障の提供

長らく保険会社所定の状態を就業不能と定義してきた生命保険業界に対して就業不能補償をいち早く提供し始めたのが損害保険業界でした。

団体長期就業不能所得保障保険(GLTD)など職場で加入する任意保険として提供の始まった所得補償保険は、サラリーマンの有給消化後の傷病手当金支給では補いきれない所得ダウンに備える1年更新、保険期間1年、掛け捨て型のプランです。

また団体(職場)を介さない所得補償保険は個人事業主の薄い障害時の収入を補完してくれる保険として現在も根強い人気があります。

2014年に日本生命が国の障害年金と連動する保険料払込免除特約を解禁すると、ソニー生命は自治体が認定する障害手帳3級以上で保険金の支払いをする「生活保障14特則付家族収入保険」を発売開始します。

損害保険の所得補償保険と異なり更新型ではないため保険料は契約時固定。また満期まで保険金が支払われるタイプということで就業不能に対する備えとしては現実路線と言えます。

またプルデンシャル生命が同年に国の障害年金と連動する就労不能障害保険(精神疾患含む)※を発売開始。

※同社の死亡保障加入者限定の提供。

チューリッヒ生命は収入保障または医療保険に特約で精神疾患による就業不能保険特約を付加したりできるプランを追加。

2017年にはアフラックから60日以上就業不能で保険金を支払う単独の就業不能保険(死亡保障なし)を発売開始。

日本生命も精神疾患を保障する就業不能(死亡保障なし)を発売開始するなど就業不能時に対する備えは各社競って発売を開始しています。

三井住友海上あいおい生命からは収入保障保険に障害年金1級、2級(精神疾患を除く)でも同額が支払われるプランが登場するなど各社で被らない、競わない、利益が減らないというカルテルでもあるかのような商品の登場をします。

2018年には損保ジャパンひまわり生命が障害年金に加えて精神疾患と七大疾病を保障する収入保障プラン(障害や就労不能時の保険金額を主契約より減らした設計が可能…本来は死亡時よりも保障額必要では?)を提供開始するなど保障領域の拡充を各社で競ってきました。

各社が競ってプランを発売するのは良いのですが、障害年金と障害手帳など各社の支払い条件が大きく二分されており、検討時に社会保障制度に明るくない契約者が適切にプランを選べるのか疑問が残ります。

※この点については別な機会に記事を書きたいと考えています。

 

介護リスクへの保障拡大

2000年に公的介護保険制度が誕生をしてから各社が模索しながら、2014年頃までに落とし所を決めたのが介護保障の領域でした。

加齢と共に介護リスクは顕在化していくが、その時に配偶者も共に高齢化していく

https://m.huffingtonpost.jp/jcej/require-nursing-care_b_5445512.html?ec_carp=980399563079116909

当初は会社所定の状態だった分かりづらい介護状態に対する支払い条件が、公的介護保険制度要介護2以上で保険金の支払いとなるプランが現在では主流となっています。

2017年に損保ジャパン日本興亜ひまわり生命が特約で提供を始めた「要介護1」からの介護保険金、またソニー生命や三井住友海上あいおい生命(特約)、朝日生命が競っている介護年金など介護の実態に合わせて一度だけ受け取れるだけで良いのか、介護中にずっと受け取れる介護年金が良いのか。実用性では介護年金と分かっていても、保険料の割高感から一時金だけを提供する保険会社が多い実態は今後の課題と言えます。

また国の財政難の時代にあって、公的介護の要介護認定のハードルが高くなっているとの懸念が残ります。

分かりづらいという難点はありますが、会社所定の要介護認定基準(ソニー生命の終身介護保険は要介護2以上で保険金支払いだが、会社所定の要介護状態は現在の公的介護保険で言えば要介護3相当)は長期の保障を考える上でのセーフティーであると考える必要が今後はあります。

またソニー生命やジブラルタ生命のように外貨建保険で死亡・高度障害に加えて介護保険金(要介護2以上)を支払う会社も登場しました。

2018年にはメットライフ生命も特約で要介護2以上で介護保険金の支払われるプランを追加するなど貯蓄性の保険でもいくつかの選択肢が登場しつつあります。

 

認知症への対応と高齢社会に対する保険会社のアプローチ

2016年3月に登場した太陽生命の「認知症ひまわり保険」の登場は保障重視プランとしては異例の1年4ヶ月で23万件を突破するなど高い支持を得る一方で続く保険商品も出始めました。

2018年に損保ジャパン日本興亜ひまわり生命が認知症の前段階であるMCIからの保険金支払いや予防・改善を支援する「認知症保険」の提供を開始しました。

三井住友海上あいおい生命は2018年4月に改定した医療保険の特約に認知症一時金を追加、2019年には第一生命も参入するなど競争が激しくなる中で認知症の介護リスクに対して保険金の受け取り方や高齢社会での保険のあり方が問われています。

例えば契約者が認知症になった場合に誰が保険金請求をするのか…などです。

保険会社各社は指定代理請求人の設定や、家族登録制度の創設、70歳以上の高齢者の契約にあたって親族同席や電話確認などを始めていますがこれらがきちんと機能するかは10年、20年の運用をしてみないことには判断が付かず、保険担当者が如何に契約者と日頃から契約者やその親族と接点を持って関われるかが今後は益々重要になってくると考えています。

 

 

 

 

 

 

 

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