金融業界の怠惰が招いたフィンテック革命と楽天経済圏

先日、生命保険文化センターが毎年主催している講演会に参加してきました。

今年のテーマは「技術革新が金融・産業構造に与える影響」ということで、

平たく言えばフィンテック(ファイナンス×情報テクノロジー)によって金融業界やその他の産業に

どのような影響を与えるのかを東京大学大学院経済学研究科の柳川範之先生が講演されました。

柳川先生は2013年にちくま新書から出版された『40歳からの会社に頼らない働き方 』などベストセラー本もあり、分かりやすい説明で経済学や金融など幅広いジャンルについての提言をされています。

近年はAI(人工知能)やブロックチェーン技術についての提言も多くされていて、

フィンテックが金融に与えるビジネスモデルの変化について非常に深い考察をされています。

90分の講演、30分の質疑応答の中で触れられていることを抜粋すると

・多くの方がイメージしているAIやブロックチェーンの進歩と実際の働き方や

ビジネスモデルに与える影響にはかなりのかい離がある。

・金融業はこれまで情報を持っていたのに十分に活用できなかった。金融以外の異業種からの金融参画によって積極的な構造変化にさらされることになる。

・ブロックチェーン技術を応用する様々な社会実験が既に進んでいることや、それによってビジネスがどう変わるのか。

大きくまとめるとこのようなことをおっしゃっていました。

(詳しくは生命保険文化センターが2018年6月に刊行するそうですので、ご覧ください)

ブロックチェーン技術=仮想通貨ではなく、仮想通貨への投資については柳川先生もバブルであり、投機的なものであると警告をされています。

私は自分でもやっていませんし、決して勧めたこともありせんが、ご自身のお金ですからあくまでも投資については自己責任でご判断ください。

 

さて、これを受けて先日の楽天が朝日火災海上保険を400~500億円で買収したことを、

私なりに考えていました。

 

朝日火災買収額400~500億円は適正か?

朝日火災は商品について非常に競争力のある良い保険料の商品があると感じる一方で、キャッシュフロービジネスの損害保険会社が400~500億円というのは安い買い物という印象を報道を見た時に持っていました。

しかし結論からすれば朝日火災の買収額としては、決算書などから資産価値がおよそ400億円ほどとなっており、適正な価格での買収額提示だったということが分かりました。

→ 朝日火災海上保険 2017年決算

諸々を差し引いた純資産が383,325百万円ということですから凡そ383億円です。

純資産はイコールで売却価格ではありませんが、買収の際の基本的な価値になります。

粉飾決算をした某オリなんとかや東なんとかのようなことがないと信じたいのですが、

そういった社内隠しなどがないとして、そこに上乗せ(プレミアム)を乗せることで野村ホールディングス側に売りたいと思わせるとすれば400億~500億円というのは良い売却先を見つけたと言えるでしょう。

私はIFA兼FPでM&Aの専門ではありません。また朝日火災も楽天も内情は知りません。

しかし、先ほどの柳川先生のお話を踏まえて考えても、楽天としては楽天市場を始めとした「楽天経済圏」をフル活用したビジネスモデルの展開に様々な事業を集めていきたいと考えている方向性で間違いがなさそうです。

一部、買収についての報道の際に「楽天がフィンテックを活用したサービス」などを検討して今回の買収をしかけたというのとも一致します。

楽天が目指しているのは究極の『囲い込みビジネス』です。

 

フィンテックについて今一度おさらい

フィンテックはファイナス(金融)と情報テクノロジー(IT)を掛け合わせた造語です。

名前だけが先行していて、実態がどのようなものか把握しづらい面がありますが我々の生活にもっとも身近なフィンテックは2000年には既に始まっていました。

インターネット銀行の登場です。

銀行はそれまで駅前などの一等地に店舗があり、人の生活にあると便利な場所(大きなお店の一角など)にATMを設置したりしていました。

しかしインターネット銀行の登場によってそのイメージは大きく変わりました。

店舗を持たないインターネット銀行はコストの安さを武器に普通銀行よりも高めの預金金利、住宅ローンの金利などの低さなど様々な面で我々の生活を豊かにする方向に進んできました。

大手銀行がインターネットバンキング(残高照会や振込手続き)に躍起になっている頃に、「店舗なくても良くない?」と攻勢をかけてきました。

 

実際にライフプラン相談でも預金に限らず、住宅ローンの借入先をインターネット銀行にしている人も少なくありません。

メガバンクの一つ、みずほ銀行は将来的に大規模な人員削減(リストラ)を行うと発表しましたし、その他の銀行も規模の違いこそあれ人員削減を行うこと、店舗を削減することを発表しています。

→ メガバンクでのリストラの嵐?

 

インターネットの普及を契機に、人を雇わなくてもビジネスが成り立つ…この事は大きな変化です。

振り返れば金融に限らず、インターネット通販なども人件費やテナント代が抑えられ、低価格や利便性が支持されて今日に至りますので、インターネットによる変革が我々の暮らしやビジネスに与えた影響はローコストとベネフィットの両面があることがわかります。

その便利さの一方で、柳川先生は講演の中で「銀行の大量リストラはネガティブな経営判断」と評していました。

私はもっと厳しく、銀行経営者は銀行は舵取りの方向性を未だに見誤っていると考えています。

インターネット銀行が登場した時に銀行は「店舗のない銀行に誰がお金を預けるのか」という言葉を発言していました。フェイストゥフェイスこそが銀行のビジネスであると宣っていました。

フェイストゥフェイスのビジネスが大切なのは否定しませんが、銀行の利用者・消費者にとって銀行は生活に必要な便利なサービスを提供するサービス業であって、よりコストが安かったり、よりサービス(金利)が良い方を利用したがります。

結果として預貯金をインターネット銀行へ移す、ローンの借り換えをインターネット銀行で行う方が若い方ほど増える事になりました。

 

その流れを加速したのがコンビニにあるATMです。店舗を持たないインターネット銀行の支店代わりになり、またATMのシェア(共有)によって銀行よりも利便性の高いサービスも加速しました。

携帯電話のサービスを展開しているNTTドコモやauはスマートフォンなどの機種を媒介とした損害保険事業に参入していますし、auはじぶん銀行を展開しています。

ソフトバンクは現在のSBIホールディングス設立に携わり、住信SBIネット銀行やSBI証券、SBI損保に事実上参入しています。

現在のSBIホールディングスから資本こそ離れていますが、SBIという社名は元々SoftBankInveatmentの略称でした。

現在はStrategic Business Innovator(戦略的な事業の革新者)」の略に変更しています。

またソニー生命を起点として2000年代後半からはソニーフィナンシャルが誕生しました。

ソニー損保、ソニー銀行、ソニーバンク証券(現在はマネックス証券に引き継いでいる)も誕生しました。

 

全国でスーパーマーケット、GMS、ショッピングモールを展開するイオンもイオンファイナンスというショッピングローンやクレジットカード事業からイオン銀行を始めました。

前述のコンビニではセブンイレブンがセブン銀行を展開して様々なネット銀行だけでなく支店の銀行ATMとしても展開をしており、ローソンも銀行業の免許取得に動き出しています。

これらの流れを見ると異業種からの金融業界参入という大きな流れを見ることができます。

ではこの間の20年、銀行や証券・保険会社は何を変革してきたのでしょうか?

銀行の主な収益の柱はあいも変わらず融資が中心ですし、我々の様々な支払い(口座振替)を行う決済代行会社です。

銀行預金の金利が他よりも良いのであればまだしも、店舗や人件費などのコスト面が大きく後発のネット銀行の後塵を拝むばかりでした。

ドラマ「半沢直樹」などの池井戸潤の作品ではありませんが、銀行の金融機関としての役割とは何なのか。その存在意義が新たなプレイヤーの参入によって失われつつあります。

 

フィンテックは既存の金融ビジネスを取り崩し、

異業種からの金融進出を促進させる改革

ここまではフィンテック黎明期に異業種からの金融進出が活発に起きた事、それによって銀行を例にその役割が薄れつつあることを伝えてきました。ここからは今後の金融がフィンテックによってどう変化していくのかを柳川先生の講演や私の私見を交えてご紹介したいと思います。

柳川先生は銀行の大量リストラをネガティブな経営判断と柔らかく評しました。

私は現在の銀行経営者を無能と日頃から断言しています。

日本の経済がバブル崩壊から間もなく30年停滞していた元凶は金融業界、主に銀行に責任があると思っています。

政治や景気の影響もありましたが、バブル崩壊による不良債権の後処理に政治も経済も金融も振り回された結果が平成という時代だったと見れます。

銀行は手数料(収益)をいかに得るかに明け暮れてきました。

株式や投資信託の販売、生命保険・損害保険の販売、融資など経済の循環に欠かせない銀行の役割を銀行は果たしておらず新しいことにチャレンジしなくなったのです。

フィンテックという言葉を聞くと、何か全く新しい金融サービスが始まるかのように聞こえることがあります。

しかしある日突然、お金が必要ない社会になるわけでもなければ、決済や投資や保険が不要な社会になるわけでもありません。

前述の異業種からの金融進出によって我々の生活に身近な場所の裏側でジワジワと5〜10年程かけて浸透して、振り返るとそれが当たり前のようになっているのです。

まるでスマートフォンがわずか数年で浸透した時のようにです。

 

柳川先生は「銀行は手固い事しかしなくなった」と仰っていました。

一昔前なら銀行の融資が取り付けられなければ、会社経営が難航するほど難しいものでした。

しかし現在はまだ過渡期ですが、銀行以外から資金を融資してもらわなくても成り立つ代替手段があります。

ベンチャーキャピタル(VC)やクラウドファウンディングなどはその一つの形です。

異業種から参入し、銀行の融資に代わるこれらは銀行が融資を断り、廃業に追い込まれかけていた企業をまるで救世主のように支え、ノウハウを注入して、企業価値を高め去っていきます。ドラマ「陸王」で、松岡修造が経営しているあの会社のようですね。

 

投資に関してはどうでしょうか?

近年は「ロボットアドバイザー」なるAIが投資先などを判断する投資方法が始まり注目を集めています。

ロボットアドバイザーによる投資はまさに機械的で、投資という人の心理を深く理解していなければ本当の意味での投資ではないとインデックス型運用に近いものと柳川先生は仰っていました。

現時点での私のIFAの立場から考えるロボットアドバイザーはやめておけです。

まだまだ一過性のブームのようなもので、私の中ではいわゆるすぐに廃れるテーマ型投資信託のような評価です。

しかしAIの成長には眼を見張るものがあります。

そうAIは今、まさに「眼」を手に入れたのです。

チェスや将棋、囲碁などのチャンピオンとAIが戦って勝つということが報道されてきましたが、あれはこれまでのAIの進歩にすぎません。

AIは進化したカメラ技術(センサー技術)と画像解析によって「眼」を手に入れました。この事によって「ディープラーニング」が可能となり、表面的なデータだけでなく表情や物の状態から推測し、判断するという段階になりました。

人間が行うには危険なことや負担の大きなことなどを機械が変わってやってくれるようになりつつあります。

Amazonは完全無人のコンビニAmazon Goを開始しましたし、テスラなどの自動運転技術では人に代わり機械が操縦をします。

 

 

コンピュータの驚異的なところはその情報の処理もさることながら、その学習をネットワークに繋がっている他のAIに瞬時に共有出来る事です。

これによって世界中のAIが人間の思考を予測したり、表情などから言葉を介さなくても行動をとるような事が考えられます。

柳川先生も同様に投資の世界がインデックス偏重である事を非常に残念に思っているようでした。

(投資は本来アクティブ型で行うものというのが私の考えです)

 

保険はどうでしょうか?例えば車の自動運転が始まれば、損害保険はどうなるのでしょうか?

自動運転技術は車の機能ですから、交通事故などのトラブルが発生した際に交渉したら、エラーに対応するのはやはり、人間です。

損害保険は自動車メーカーの一部門となり、保険会社という形を取らなくなるかもしれないと柳川先生は可能性を示唆されていました。

たしかにドライブレコーダーなどで急発進などをしないドライバーの保険料を割り引くなどの保険会社がオーストラリアなどに登場してきましたし、フィンテックの進歩は人がより安全に暮らせるように今あるものの形を変える可能性があります。

 

生命保険はどうでしょうか。スマートウオッチのような脈拍や活動量を常時管理するシステムが十分に普及すれば、生活習慣の予防や食習慣などの改善に活かせるようになるかもしれません。

実際、NTTドコモと東京海上日動あんしん生命が共同開発した「あるく保険」のように毎日の歩数によって保険料が割り引かれるなど実験的な試みが始まっています。

しかし人はそこまでAIの言うことを聞くでしょうか。

食べたいものを食べ、寝て、飲んで…健康を害する人や医療を受ける人はやはり変わらずに出てくるでしょう。

人はいつか必ず亡くなるという自然の摂理も考えると形を変えて、生命保険は存続するなではないでしょうか。

また生命保険の強みは保障性を持ちながら、貯蓄性や資産形成もできる点(この点を証券出身者は否定的ですが)、

そして担当者との人間的なつながりが持てることなど複合的です。

 

損得、好き嫌いや白黒・善悪などのはっきりさせる面でAIは大いに役立つでしょう。

しかし人間は中間色で、中庸も求めます。

そういった意味では金融のあり方が姿を変え、メガバンクなどは淘汰され、

異業種からの参入組が今後の金融を担っていくと言えるのではないでしょうか。

楽天が朝日火災買収で進める『楽天経済圏』とフィンテック

 

柳川先生の講演の中で金融業は元々情報産業であったというお話があります。

銀行であれば預金残高や信用(与信)情報(お金を貸せる人かどうか)、証券であれば投資している株式等の金融資産額、

損害保険であれば家の情報や車の保有している車種や事故歴などの情報、生命保険会社であれば家族構成や健康状態などの情報を独占的に保有していました。

しかし冒頭にあったように「手堅いことしかやらなくなった」というお話にあったように、

金融機関はこの情報を活用してきませんでした。

(金融機関だけでなく日本企業はインターネット通販でも購入履歴などの情報は流出リスクが怖いと削除してきました)

 

アメリカ・Amazonなどはこの情報を営業を始めた1998年からずっと持ち続けたと言います。

そしてこの本を探した人はこういう本も見ていますというレコメンド(おすすめ)機能を、購入者本人以上に理解し、

提案してきたりします。

Appleも同様でiTunesで音楽を購入した人の履歴をもとに、別な曲やムービーを紹介することに抜かりありません。

 

アメリカでは現在、これらの情報をAIに学ばせるということを進めています。データはAIにとって食事のようなもので、

より沢山のデータを吸収するほどAIは賢くなります。

日本でもAIの開発が急ピッチで進められていますが、データを捨ててきてしまったためにAIが吸収できるスピードに大きな差が生まれています。

 

しかし、いくつかの企業ではこの情報を有効活用しようという動きがあります。

日本ではビックデータと呼ばれ、たとえばSuicaなどの交通系ICカードではどこからどこへどの時間帯に移動をしたかというデータを取得しています。

Suicaなどは様々な場所で決済手段としても利用できるため、その人の購買履歴なども知り得ます。

Tカードを展開するTSUTAYAなどの運営母体CCC(カルチャーコンビニエンスクラブ)などは利用者の嗜好を把握するための

貴重なビックデータを保有しています。

Rポイントカードを持ち、ネット通販をはじめ貯金、融資、決済、旅行、通信、投資、保険まで網羅する楽天グループは

これらの情報を顧客包囲網として活用することが可能です。

→ 楽天の執行役員がビッグデータでEコマースの売上げを急伸させた秘策を公開 (2014)

 

損害保険という1つのジャンルの買収ではなく、楽天市場は自前の経済圏に顧客を引きずり込むことで膨大なビックデータを取得することに王手をかけました。

最大の問題はAIですが、楽天は日本でも有数のIT系企業です。

ロボテクスなどのジャンルはソフトバンクが先行していますが、楽天もIT系大手の能力を持っていることから

ビックデータと金融の組み合わせをした大きな変革を起こしてくれる可能性があります。

楽天の株価は先週から日本経済全体の失速によってこの直近2年で最安値圏にあります。

株式の保有は長期であることが大前提ですが、1単元100株から取得できるので約10万円あれば楽天の株主になれます。

投資は自己責任ですが、今後の成長を含め検討するに値する企業かもしれませんね。

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