万が一、保険会社が破綻した場合に契約はどうなるのか?

前回、バブル崩壊に端を発した不良債権問題と第一次金融ビックバンによって

日本の銀行と保険会社がお互いの資本を持ちあって支え合って乗り越えてきた過去をご紹介しました。

今回は実際に保険会社が破たんした場合に、契約者である我々がどのような不利益を被るのか。

それを救済するためのセーフティーネットがどのような状況なのかについてご紹介します。

過去に破綻した生命保険会社

こちらは前回もご紹介した戦後破たんした生命保険会社の一覧です。

引受保険会社
1997年 日産生命 あおば生命(プルデンシャル生命へ吸収)
1999年 東邦生命 GEエジソン生命→AIGエジソン生命(2012年プルデンシャルグループ・ジブラルタ生命へ吸収)
2000年 第百生命 マニュライフ生命へ移管
2000年 大正生命 あざみ生命→大和生命
2000年 千代田生命 AIGスター生命(2012年ジブラルタ生命へ吸収)
2000年 協栄生命 米国プルデンシャルファイナンシャルが買収→ジブラルタ生命として再建
2001年 東京生命 T&Dフィナンシャル(太陽生命・大同生命)に吸収
2008年 大正生命 PGF生命(2009年ジブラルタ生命、関連子会社へ)

1997年に生命保険会社として戦後初の破たんをした日産生命を皮切りに、

2017年6月時点までに8社が破綻をしています。

2000年に破たんをした大正生命は引受保険会社あざみ生命を経由して大和生命に改称しましたが、

2008年にリーマンショックによって起きた経済危機によって二重破たんをしています。

しかしいずれにしても引受保険会社(救済保険会社)によって吸収や合併がされています。

では契約そのものはどうなったのでしょうか。

 

バブル崩壊後に急きょ作られたセーフティーネット

 

銀行・証券会社によって燻っていた不良債権問題とバブル崩壊の後遺症が

保険会社にも飛び火してくることが懸念されていた1996年、生命保険業界では

4月の保険業法改正に合わせて保険契約者保護基金制度を設立しました。

 

しかし破綻した保険会社の移転などを受け入れる救済保険会社(ホワイトナイト)が現れることを

前提とした制度だったため、実際の1997年日産生命破綻によってその不安が表面化しました。

日産生命は日立製作所などを有する日立グループと資本関係にありましたので、資金提供を求めましたが断られ、

救済措置は暗礁に乗り上げてしまいました。

生命保険協会はやむなく「あおぞら生命」を設立して受け皿会社を探すという暫定措置を行いました。

1999年、フランスのアルテミスグループが引き受けを行い、「あおば生命」として買収することで決着するまで契約者も生命保険協会も混乱が続きました。

※2004年、わずか5年でアルテミスグループは米国プルデンシャル・ファイナンシャル資本の日本のプルデンシャル生命へ売却して日本から撤退しました。

 

1998年6月の保険業法改正によって現在の『契約者保護機構』へと改組。

救済保険会社が現れなかった場合でも経営再建を支援できるように制度自体を修正しました。

 

責任準備金の9割までを補償

日本では先進国の金融業界におけるセーフティーネットとしては異例の手厚い保証を補償しています。

このように説明するのは、先進国であってもこのような救済制度を設けている国は非常に少ないことを示しています。

新興国によっては一切の補償がない金融市場の方が多いとされています。

※日本では保険業法によって海外の保険会社で保険に加入することは原則として禁止されています。

金融庁に認可・届出のある日本で営業をしている保険会社または海外旅行傷害保険のような短期的な保障は加入が認められています。

 

少しわかりづらい言葉ですが、「責任準備金」という保障のための

積立金(解約返戻金があるタイプであれば近似値※)の

9割までをこの契約者保護機構が補償してくれます。

※契約から5年超経過後の解約返戻金とほぼ近似値というのが正確ではないが、最も現実的な数値に近い。

正確な数字は保険会社、契約年齢、性別、契約時期など契約ごとに異なり、非公開とされています。

 

万が一、保険会社が破綻した時の保険契約はどうなるのか?

生命保険会社が破たんをすると我々の生活にどのような影響が出るのでしょうか。

銀行や証券であれば預貯金など預けている資産さえ戻ってくれば被害は最小限に食い止められますが、

生命保険契約の場合にはそうもいきません。

 

何故なら新たに加入しようとしても契約時の条件と同じ年齢や同じ保険内容、

保険料・予定利率での再加入はほぼできないためです。

もし健康状態が加入当時よりも悪化していれば再加入が出来ない場合や保険料が割高になるなど

私たちの生活設計に非常に大きな影響を与えます。

このため生命保険会社が破綻するということはあってはならないことなのです。

 

しかし残念ながら破たんした保険会社は日本の歴史上、存在します。

その際に契約者にどのような影響があったのかが下記の表です。

会社名 根拠手続 債務超過額

単位:億円

資金援助額等

単位:億円

責任準備金

削減

引下後の予定利率

(同年度の予定利率)

日産生命 保険業法手続 3,000 資金援助等

※2,000

なし 2.75%(2.75%)
東邦生命 保険業法手続 6,500 3,663 10% 1.5%(2%)
第百生命 保険業法手続 3,200 1,450 10% 1.0%(2%)
大正生命 保険業法手続 365 267 10% 1.0%(2%)
千代田生命 更生手続 5,975 0 10% 1.5%(2%)
協栄生命 更生手続 6,895 0 8% 1.75%(2%)
東京生命 更生手続 731 0 なし 2.6%(2%)
大和生命 更生手続 14.9 278 10% 1.0%(1.5%)

※契約者保護基金による資金援助

 

右側の2つの項目が契約者の契約内容に直接影響を与える部分です。

『責任準備金の削減』は保障額に直接影響を与えます。

契約者保護機構は責任準備金の90%までを補償すると約束していますので、

責任準備金の削減はほとんどの場合で最大限実行されたと見ることができます。

またそれによって保険金や解約返戻金が削減されたことも想像できます。

 

『引下後の予定利率』は加入時の予定利率とのギャップによって影響の度合いが異なります。

この影響を最も大きく受けるのが貯蓄性の商品です。

日産生命破綻時に最も影響を受けた個人年金保険は最大7割カットになったというエピソードもあります。

 

更に市中の予定利率よりも低く設定されています。

もし健康状態に問題がないとしたら加入から数年以内であれば

新たに加入しなおした方がお得になってしまう現象が起きたと予想されます。

また保険料にも影響を与え、前述の責任準備金と併せて保障額が削減されたと考えられます。

 

踏んだり蹴ったりの早期解約控除

日産生命破綻時に慌てて解約を行った契約者が早期解約控除というペナルティーを受けました。

さらに解約返戻金などが差し引かれるという踏んだり蹴ったりの結果に契約者からの保険への不信感は募りました。

この制度は破たんした保険会社から急激に資金流出を防ぐ措置で設けられていますが、

本来の目的とは逆に戦後初の倒産によって業界も契約者もパニックに陥り、結果として契約者の信頼を損なったと言えます。

契約者保護機構の財務状況

いざという時に加入してきた保険契約が全くなくなってしまうことを

避けることが出来るセーフティーネット、契約者保護機構。

非常に心強い制度である一方で、急ごしらえで作った制度のために危惧もあります。

契約者保護機構が救済のために投じる資金(財源)は4,600億円と言われています。

これは国内で営業をしている全ての生命保険会社が毎年お金を出し合って積み立てることになっているのですが、

財源とはあくまで融資額の上限を示しています。

4,600億円のお金が現時点でプールされているわけではないことを触れておきます。

少し古いデータですが2008年9月末の契約者保護機構の積立額は約600億円でした。

毎年順調に積み立てをしていき、2016年度末時点では約2,050億円まで積立てられています。

 

この4,600億円とはどういったお金なのかといえば、

保険会社の負担があまりに大きくなってしまうと連鎖破綻や、

契約者に負担が及ぶ可能性があるため生命保険業界全体で負担する上限として設定されているのです。

 

実際、過去最大の破たんをした東邦生命の救済に3,663億円が使われています。

もし立て続けにこのような大型破綻が起きた時には4,600億円の上限を超えてしまう場合さえあります。

(千代田生命、協栄生命の債務超過額は4,600億円をはるかに超える事態だった)

そのような時には政府が資金援助をすることが約束されていますが、そのためのハードルは決して低くはありません。

 

保険業界の中では何度もこの契約者保護機構と救済措置について議論をされていますが、

制度そのものに反対の声があることもまた事実です。

健全な経営をして自社で責任準備金のほかに積立金(内部留保)をしている保険会社も少なくありません。

セーフティーネットの相互支援という性質と、

資本主義における自由競争・保険契約者の自己責任という考えが相いれないという意見もあります。

健全に経営をしている会社からすれば、経営に失敗した会社の救済に

お金を使わなければならないのも釈然としないかもしれません。

 

様々な考えがありますが、セーフティーネットとしての契約者保護機構は

私個人としてはあることに意義があると考えています。

2008年に大和生命の破綻が起きてから9年、2000年の千代田生命・協栄生命の破綻(ジブラルタ生命へ)は

契約者保護機構からの資金援助なく救済保険会社が登場しているなどの背景も考えると

制度としては維持しつつ、業界全体で破たんした保険会社を吸収して再生する方法の共有化など

次の段階に進む時期ではないかと考えています。

 

破たんした8社のうち、最終的な形を見れば

第百生命(カナダ・マニュライフ生命)、東京生命(T&Dフィナンシャルグループ)以外の6社は

アメリカのプルデンシャル・フィナンシャルによって再建されています。

その集約先の殆どがジブラルタ生命(旧協栄生命)であることは、再建手法が優れていると考えることと、

集中によって再びの危機が訪れた時に一気に噴出する危険性を併せ持っているといえるのではないでしょうか。

 

次回は親会社の破たんによって吸収されたあの保険会社グループのお話です。

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